寺子屋”ZEN”は新潟県三条市の工具メーカーに勤務40年の丸山善三がお届けするWebメディアです。

鍛冶屋の街にピアノの音色

11月も下旬に入ると、寒さが身に堪えてくる。
天気予報で等圧線の間隔が狭まる予想天気図が示されると、
本格的に冬に向けた作業が始まる。〈タイヤ交換、冬囲い、シャベル等〉冬将軍と
闘う準備という訳である。11月は「霜月」二十四節気では「小雪」となり、
降雪がいつあってもおかしくない天候である。皆様には特に寒暖差の激しい
この時季は特に体調にはお気をつけいただきたい。

さて、先日三条市に記念すべき演奏会が開かれた。
エラール社製(フランス)のピアノ演奏会である。

エラール社は、かつてフランス宮廷御用達のピアノとして著名で、
王妃マリーアントワネットも寵愛したといわれる。現在、既に生産されていない。
今回演奏されたピアノは、なんと93年前の昭和5年に製造されていたものだ。
現在我が国でフルコンサートに使われるエラール社のピアノは3台(赤坂離宮迎賓館等)
しか存在していない。製造年代からも今回演奏されたピアノは「幻の名器」と言えるだろう。

今回の演奏に至った経過は昭和7年、地元の女学校(現在の三条東高等学校)の
同窓会員が20周年を記念して高校に贈呈したものである。しかしながら、
平成8年を最後に使用されておらず今回27年の歳月を経て演奏されたものである。
そして管楽器の生命線である調律・調整の費用は、NPO法人燕三条エラール推進委員会が
寄付を募って成されたものである。正に、念願の夢の音色が蘇った演奏会といえるだろう。

ところで、ある文献によると「ドレミファソラシド」の音階の発見は、音階と音程に対する
数比から割り出したものである。その発明者は何と古代ギリシャの数学者・哲学者ピタゴラス
であるとされている。それもある偶然からである。


その出来事は、ある日ピタゴラスが鍛冶屋の前を通りかかった時、職人の振るうハンマーの
「カーン、カーン」の槌音の異なりを察知し、重さによる変化に気づいた。
つまり重さが一定の整数比になっている時に美しい音が響いてくることが分かったのであった。
さすが天才だ。目の付け所が違う。鍛冶屋から聞こえる槌音が、ピアノの音階の発明と結びついた。
奇しくも鍛冶屋の街、新潟県三条市でエラール社のピアノの音色が響き渡る…。
奇跡に値する夢の実現といえよう。

これをきっかけに三条市は、鍛冶などの伝統産業立地の経験から、
独自の文化・芸術を創造することが出来かもしれない。
そして、産業と文化の共存構想を掲げ、将来テクノロジーとアートの
融合した都市に変貌していくことを願いたい。

*参考資料

  「三條新聞」2023年11月24日朝刊、第4面


エラールピアノ復活のニュースはケンオードットコムにも掲載されていたのでぜひご覧ください。

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