寺子屋”ZEN”は新潟県三条市の工具メーカーに勤務40年の丸山善三がお届けするWebメディアです。

座禅経験の中から -禅僧澤木興道の事-

25年程前、近くにある曹洞宗の禅寺に座禅会が行われていると知り通い始めた。
その時は、単なる興味本位でやってみようという思いから座禅体験をしたわけである。

座禅会では40分を2回に分けて座りその後、寺院所定の書籍から
住職より簡単な講義が行われた。
その時の書籍が禅僧「澤木興道」本人の著作やそのお弟子さんが書かれた書籍であった。
その内容は、座禅についてこと細かく分かりやすい事例を加えながら行われた。
有難い話を聞いた後に頂く丁寧に入れられたお茶がとても美味しかった。

その時、一緒に参加していたある方の印象が強く印象に残っている。
その方は60歳で、住職の知り合いでもあり会社を定年退職され
座禅会に参加していた。講義の本の内容にも詳しく、坐相(座禅の形)
もしっかりしていて相当の経験者と思われた。その方は間もなくして九州の或る
禅寺で1年間の座禅修行を積まれて何時ものようにこの座禅会に通われた。

私自身は座禅会に月2回程度3年間通ってその後は途切れてしまった。
別段の変化も無く(何かを期待することが本来ではないと後で知った)
続けることが出来なかった。

現在私は、同じ寺院で再び座禅を始めた。

あれから既に25年が過ぎ、当時の住職もお亡くなりになり
息子さんが当時と同じように座禅会を引き継がれていた。
当時のメンバーとしてのあの方は、既に居られなかったが、
一緒に始めた大学教授の方は当時からずっと続けられ、懐かしさがよみがえった。

参加しているメンバーも10人近くになり私よりずっと若い方々である。

 私は、改めて座禅を始めた当時、住職が繰り返し話していた

「座っていると色々な事が浮かんできますが、そのままにしておいて下さい。
 慣れるまでは、我慢して座り続けてください」



と云う言葉を思い返しながら座ることにした。

 今私は、当時から講義の題材とされてきた澤木興道の書籍を改めて読み始めている。

波乱万丈な生涯を送った澤木興道その人は、明治から昭和の禅僧として
仏教界に留まらず海外にも影響を与えた。現在その思想は、米国スタンフォード大学の
曹洞禅センターにも引き継がれ、世界的にも日本座禅実践の先駆けを示した。
また、アップル創業者のステイーブ・ジョブスも生前、大いに沢木興道の影響を受けている。
昨今、欧米の知識人は日本の禅思想の中に自己の問題解決の糸口を求めて
座禅しているようにも思える。

 さて、7歳で父を亡くし一家離散という境遇下にあった澤木興道は、
時に賭博場の見張り番という悲惨な環境の中に在っても純粋に人として
有るべき姿を探しながらついに18歳の時、家出し永平寺に向かう。
そこでは、すんなり坊主にしてくれるはずもなく二昼夜の飲まず食わずの
頼み込みでようやく仕事部屋の男衆として置いてもらうことが許された。

 ある時、氏が座禅に生涯を捧げる機会となる大きな出来事があった。
それは彼をこき使っていた老婆が、彼の座禅している姿を見て拝んだのだ。
その事実からであった。

氏は、その時を境に本格的に座禅求道へ速度を上げた。
そして、ひたすら“座禅三昧”の日々が続く。


その後、日露戦争が勃発して氏は召集される。戦地である大陸の奉天会戦で
一時瀕死の重傷を負うも除隊し、帰国した。まさに九死に一生の帰郷であった。
その後は唯識教学を学ぶため寝食を忘れて勉学に打ち込む。即ち、万日山郷に
独居して全国各地の参禅会を巡り“只管打坐”を実践した。

 氏がこれほどまで座禅に命をかける信義は、何だったのであろうか?
氏に問う「座禅をして何になる・・・」と。
「座禅をしても何もない。只、心身脱落してひたすら座るのみ」との返答。

 澤木興道は後世に多くの言葉を遺したが、ある弟子が伝えた氏のノートを次に紹介する。

 《一、汝自身の精神的要求に帰れ、人間最高の根本的要求にかえれ。

  二、座禅は新たなる人生である。

  三、座禅による新たな人生は、いかなる環境にも随順しつつ、それに没落せず。

  四、我々は歴史と社会とに支配せられてはならぬ。しかし又それを無視してはならぬ。

  五、座禅は人間の孤独に徹することである

     人間は孤独で有る時、もっとも自己に親しみ、真の自己に徹することができる。

 證道歌に曰く「常に1人行き、常に独り歩む人生は1人旅である⦆

  25年前、最初に座禅を始めた時の住職が澤木興道氏の弟子であったことを後に知った。

座禅は自分との対話である。浮かんだ思いの数々は、言葉としてそのままに受けとめる。
際限なく浮かんでくる思い(言葉)は、蓄積と忘却を繰り返す。
何も変わらない自分自身に向かい合う。一生をかけて真の自分を見つける修行、
此れが座禅である。しかしながら修行と言っても難しく考える必要はない。

1人静かに座る(椅子でもよい)良い場所を見つけ姿勢を正し、
瞑想する。(目は閉じない)勿論眠ることは禁物である。

奇しくも最近、SNSで澤木興道全集(全19巻)の古書を購入する機会を得た。

私は、座禅を一生続けたていきたい。

 まだまだ暑い日が続く昨今、静かに座禅してみることも良いのではないか。
遠くでセミの鳴き声が聞こえてくるだろう。

座禅に関しては多くの書籍がありますのでご興味ある方は参照してください。

澤木興道 – Wikipedia  
澤木興道全集

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