白鳥、故郷へ帰る
白鳥の生態を知る
先週末の春を思わせる陽気から一転して厳しい寒さが日本列島を覆った。
顔を出した虫たちも寒さに驚いて、再び顔を引っ込めたはずである…。
大船渡市の山林火災は、人力では終息の糸口が見いだせない状況が続いた。
しかしながら皮肉なことに自然のもたらした“恵みの雨”によってようやく
鎮火の兆しが見え始めた。不安な日々をお過ごしの方々には一日も早い終息を祈るばかりである。
3月5日は、24節気の「啓蟄」にあたる。
「啓蟄」とは、土ごもりをしていた虫たちが 春の光を感じて動き始めることをさす。
今年の冬は、殊の外厳しかった。しかし、寒さの中でも自然の営みは休むことなく春を
迎える準備をしており、やがて花が咲き、小鳥のさえずりに春の訪れを感じる。
冬から春にかけてのこの時期は、昆虫たちの活動も頻繁になると同時に動物たちも目を覚ます。
当ブログの2月1日連載にも書いたが、私の住んでいる場所から車で20分足らずのところに
コハクチョウの飛来地がある。「白鳥の郷公苑」と呼ばれ、五十嵐川上流の一画にある。
ここでは11月中旬から徐々に飛来が観察され、最盛期の1月下旬には400羽近い白鳥が確認された。
3月に入ってからはその数も100羽程度に減ってくる。白鳥たちは極寒の地、遠くシベリア
各地からカムチャッカ半島を通って日本列島を目指し、冬期は温暖な日本で越冬する。
そして、春の訪れと共にまたシベリアに帰ってゆく。日本国内で定期的に渡来し越冬する
個体としては、体の大きなオオハクチョウ、体の小さなコハクチョウの2種が生息している。
当地では体の小さなコハクチョウが生息している。全国的にも飛来地として著名な、
新潟県阿賀野市の瓢湖は白鳥の飛来により2008年にラムサール条約に登録されている。
他に新潟県では、福島潟・五十公野公園のます潟・白鳥の郷公苑などに白鳥が多く飛来している。
当地で観測されるコハクチョウは、彼らの故郷から日本列島間を往復する際、北海道を中継地としている。
コハクチョウが日本で越冬している約4カ月間は、日中近くの水田で餌を探して、
夕方、日の落ちる頃に“ねぐら”の河川沿いに戻ってくる。白鳥は水草の葉、茎、地下茎、根を
好んで食べることからも草食性と思われがちであるが、実は雑食性でもあり、時には
昆虫、貝、甲殻類も食べている。また、日中の水田などでは歩きながら落穂などを
ついばんでいる。夜間は、地上の天敵から襲われない水上や草かげで頭を羽に入れて眠る。
夜が明けると再び飛び立ち、日中は採食に出かける。
コハクチョウは、春(4~5月)から秋(10~11月)迄シベリア等の極東北部で生息、繁殖活動や子育てを行う。
昨年の秋に誕生したであろう子供の白鳥は、まだ柔らかそうな灰色の毛に覆われている。
日の出を過ぎる頃、私の自宅の上空にねぐらを飛び立った白鳥の姿が観察される。
その群れの真ん中付近からは、たどたどしい白鳥の子の鳴き声が聞こえてくる。
遠く故郷を目指し飛ぶ白鳥たちの群れに目をやると、私達に全霊を込めて別れを継げているように感じてくる。