携帯電話シンドローム
スマホを置いて街へ出よう
6月に入った。新潟、越後平野の水田は、春先に植えられた稲が青々と風に揺れている。淡い陽の光を受けてキラキラと輝いている。既に1年の半分が過ぎてしまった。
5月中旬頃までは、寒暖差が激しかったが、それもなくなり汗ばむ日も多くなってきた。季節は、確実に進んで行くものである。
さて、先日東京へ行く機会があり首都圏の電車内の乗客の視線がスマホに張り付けられている昨今の場景に驚いてしまった。ここで考えてみたい…。通信手段として固定電話の時代から移動式通信であるスマートフォンの現在まで果たしてどのような変遷を経てきたのであろうかと?興味深いと思いながら早速調べてみる事にした。
いわゆるポケットベル(ポケベル)から遡る。ポケベルは、1968年に日本電信電話公社(当時)が開始した無線呼出サービスである。当初は、呼び出し機能のみが提供されていたが、文字表示のサービスも追加された。しかしながら、携帯電話の普及に伴い、利用者は減少し2019年にサービスが終了されたが、何と半世紀にわたって愛用されてきた。私が営業駆け出しの頃の昭和60年代、ベルトに付けたポケベルが、けたたましく鳴り慌てている営業マンの姿は日常茶飯事であった。ポケベルは、一方通行のアナウンス手段であったが、その後の携帯電話の普及は、相互の通信が可能で画期的であったといえる。日本で初めて「携帯できる電話」が登場したのは、1985年のことである。NTTから発売されその名も「ショルダーフォン」。総重量3キロという、ショルダーフォンはその名前が示す通り、肩に掛けて使うことを前提としていた。 しかも連続通話時間は40分ほどしかなく 更に月額基本料2万円以上と贅沢品であった。ショルダーフォンは、その利便性からも長くは続かなかった。時を待たずにガラケーが登場した。携帯性の優れたガラケーは、1990年代から2010年代にかけての携帯電話の進化と共に、日本における独自の発展を指した。ガラケーは、iモードや3Gサービスの登場、その後、スマートフォンの台頭によって徐々に市場から姿を消していくことになった。スマートフォン(略称、スマホ)は、1966年ノキアによる電話機能付きPDA端末の発売から始まり、2007年のアップル製スマートフォン「iPhone」発売および同年11月にGoogleによる基本ソフト「Android」の発表によって世界に広く普及した。
さて、スマホとガラケー(フィーチャーフォン)の主な違いといえば、OS、機能の拡張性、操作性、そして利用できるアプリの数による。スマホは、iOSやAndroidといった汎用的なOSを搭載し、自由にアプリを追加して機能を拡張できまる。一方、ガラケーは、携帯会社や機種ごとに異なる専用OSを搭載し、アプリの追加は制限されている。また、スマホはタッチパネルで操作するのに対し、ガラケーは物理的なボタンで操作する。ところで日本のスマートフォンの普及率は非常に高く、2010年頃からスマートフォンの普及が進み2010年代前半に、iPhoneやAndroidスマートフォンが日本で広く利用されるようになり、急速に普及が進んだ。2024年のNTTドコモ モバイル社会研究所の調査では、携帯電話所有者のうちスマートフォン比率が97%に達している。これは、調査開始の2010年には約4%だったことから、急速に普及が進んだことがわかる。今や、スマートフォンは、折りたたみディスプレイの進化、AI技術の高度化、5G/6Gネットワークの普及により、さらなる進化を遂げると予想される。具体的には、より柔軟でコンパクトなデバイス、パーソナルな情報サポート、高速通信による新たなサービスなどが登場するであろう。
さて、5年前、『スマホ脳』が、世界的にベストセラーになった。著者は、スウェーデン人のハンセン氏。彼は脳科学の分野を研究する精神科医である。ここで著者は、現代人は1日平均4時間、最低でも10分に1回はスマホに触れており、タッチする総計は1日2600回以上に上る。これが10代の若者となると、その2割は1日7時間もスマホを使っていることになる。これらは、睡眠障害、うつ、記憶力や集中力、学力の低下、依存を引き起こして脳が確実に蝕まれていく現実を示して衝撃が走った。当時、『スマホ脳』は、社会現象となった。しかしながら昨今、スマホ習慣化による危険性は、孕んでいるもののその便利さから一向にスマホ離れには繋がっていない。これらは、むしろ当然のことであるともいえる。
スマホ社会である一方、我が国のスマホ市場も完全に飽和状態であり、国内メーカーは、販売に苦慮している現実がある。具体的には、2024年の国内メーカーの携帯電話出荷台数は、前年比26.0%減の569万5000台と、1994年以来の低水準を記録した。
スマホ市場の衰退は、国内メーカーにとって大きな課題となっている。グローバルメーカーとの競争、原価高騰、規制など、克服すべき課題は多岐にわたる。今後、国内メーカーは、独自の技術やサービス、顧客ニーズへの対応など、強みを活かし、市場での存在感を高める必要があるだろう。
話は変るが、私は先日スマホを家において一人近隣の温泉で2日間を過ごした。その為か習慣化しているスマホに手を触れることもなく、ゆっくり読書することができた。短時間ではあるが、目の疲れもなく、快適であった。
“スマホを置いて街に出よう”
時に現代人は、精神と肉体の均衡を保つ必要があるのではないか…。
